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2015年10月10日



サマータイムが始まり日本との時差が4時間になりました。花のつぼみが一斉に開き、日中は上着がいらない日も増えました。

今日は、義父グレアムとの時間を書き留めておきたくなり、どこまでも主観的に文字を綴ります。ご了承ください…。

  あと2週間で70歳を迎えるはずだったグレアム。病との闘いを全うし義母ジュディに手を握られながら春の陽気に誘われるように旅立ちました。

医師が正式に病名を告げたのが最期から一週間前。治療法もない難病。痛みはないものの、脳から無意識に神経に伝達される運動のせいで体力を消耗します。よく眠れるための薬以外は摂らず、部屋を訪ねる家族や親戚と過ごし自然に近い形で段々とその時を迎えたように思います。

半日ごとに容態が変わる中、変わらず渾身的にお世話して下さった看護師の皆さん。「ヘリコプターで一緒に空飛んだよね。途中降りてお茶したかったけどね」と義父にジョークを言い、返事がわりに眉毛を上下に動かした義父。検査のためクライストチャーチに同行してくださいました。

残りの時間を大切にして欲しいと誠実に全てを説明してくれたスーザン先生。この病気の患者さんは過去に一人のみ。スイス、イギリス、アメリカ、オーストラリア…世界の医師に協力を求めてくださいました。それでもなお「時に自分の仕事が辛くなるわ。」と本音を語り不甲斐なさを漏らす姿が忘れられません。話せるうちに要望を、と尋ねた先生にグレアムが「Donate!(臓器提供)」と言います。すかさずジュディが「No!Too pickle!(だめよ、あなたの臓器はとても漬物っぽいんだから!)」この状況で大爆笑。夫婦漫才で先生を笑わせて、なだめたかったのかも…。

何年経っても初めての経験は不意にやってくるもので、嫁の私はどう力になったらよいのか悩みました。
「このダメ嫁!」と実家から喝が飛んで来そうですが、主人の実家では何から何まで手厚い義母のお世話になりっぱなし。出迎えられた朝はベーコン&エッグに温かいパンと紅茶が用意され、ランチはカフェ、ディナーはローストと温野菜。何か忙しくしていると気が紛れるジュディの仕事を、善かれと思い奪うことはできないのです。洗濯後アイロンがピシーっとかかった服が寝室に…。ありがとう、ありがとう。何度も言いました。九官鳥の方がまだうまく言えるんじゃないか、と気の利いた言葉を探します。

何かできることを探した結果、食後の片付け、バスルームの掃除を日課にすることに成功。そして、いよいよ病室に泊まりたいという義母の言葉にアイデアが湧きました。夕飯を作りに一旦帰り、食器も持参して皆でディナータイム。主人もヤル気まんまんでカルボナーラにガーリックブレッドを作った日は数人の看護師さんがタッパー持ってきていいか尋ねるほど。

昼間はサンサンと陽が入る眺めの良い部屋でピクニックランチを提案。サンドイッチとクッキーが看病疲れを癒してくれたようで喜んでくれました。
(個人的にはお茶と味噌、黒砂糖、カシャムチ…パパイヤの漬物を持って行きたいところです)

そして、旅立ちの朝。いつだってウインクや笑顔を見せた顔はまだ温かく、冗談ばかり言っていた口は今にも喋り出しそうでした。

7週間の入院生活後に待っていたのは、「ライフ セレブレーション」と称するお葬式の準備でした。

色々な打ち合わせは、家族を失った直後にさらに辛く重い気分になります。担当のカールさんは、流れのみを丁寧に説明してくださいました。翌日以降セレブラント(式執行者)のレイチェルさんが来てグレアムの生い立ちや人柄など尋ねました。そこでジュディが思わぬ提案を…。「あなたのサックス、グレアム好きだったのよ。演奏してくれる?」涙で潤んだ目でお願いされてNOと言えるはずがありません。仕事少なき嫁の勤め。即OKいたしました。レイチェルさんも「友達の友達が持っているから、借りてきますよ」と。式は2日後。楽譜は妹の結婚式の選曲をしようと偶々いくつか持ってきていました。その中から『You raise me up』を選びました。ヤマハでもセルマーでもない銘柄の楽器、台湾製ジュピターは初対面ながら頑張ってくれました。http://youtu.be/k7d-iAClGvY

葬儀当日。友人親戚80人程集まり、深草色の紳士的な棺にユリのブーケを前にグレアムの生前を振り返り、スピーチをしたり、歌を歌ったりと式は進みました。棺にフリージアを手向け別れを告げたその感極まった後、最大の試練がやってくるではありませんか。私が演奏するのは出棺で見送りの時だったのです。感情的になって演奏が駄目になっては台無しです。鉄の心臓、Cool as cucambar(キュウリのようにクールに)…先ほどまでの悲しみを一旦置いて、集中いたしました。

気がつくと会場には私1人。主人が呼びに来て霊柩車の出発に際し家族と一緒に見送ることができました。

出席できなかった方々や日本の家族のために映像を配信するサービスもあり、3ヶ月観られるそうです。テクノロジーにも感謝。

結婚49周年だったグレアムとジュディ。1人置いて後ろ髪を強く引かれる思いでオークランドに戻りました。ご近所さんやお友達がよく遊びにきているよ、と明るい声に少しほっとしました。
若かりし日の2人…


持っていった楽譜に中島みゆきの「糸」がありました。日本ではちゃんと聴いたことがなかったのですが、歌詞をじっくり読むとじんわり染み入ります。
「 …逢うべき糸に 出逢えることを 人は仕合わせと呼びます」
NZに来て右も左も分からない私を実の娘が出来たようだと歓迎してくれた主人の両親。結婚や病気や別れ全てが仕合わせで、家族になっていくのだなあ…と縁の神秘さを感じました。http://youtu.be/yri8k4P0hNI

研ぎ澄まされた時間を過ごした後は、しばらくセンチメンタリズム。このあたりで、筆を置きます。

どうか、縁ある人との時間を温かくすごしてください…。

☆今日のコタロー

あなたも家族よ…聞いてるかい?テレビに夢中な年頃です。


   
 



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Posted by AMAMINZ  at 18:09 │Comments(2)家族

この記事へのコメント
沢山の愛情をもらって、旅立ったグレアムさんのご冥福をお祈りします。
Posted by 兄ムーチョ兄ムーチョ at 2015年10月12日 16:55
温かいお言葉、ありがとうございます。グレアムへの御恩返しをもっとしたかったなあと少し後悔していますが、笑って過ごそうと思います。
Posted by AMAMINZ at 2015年10月13日 04:53
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    コメント(2)